雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

綾辻行人『Another』

いまさらですが、読んでみました。

主人公である榊原恒一は父親の仕事の関係で一年間だけ、祖父母の家のある夜見山で暮らすことになりました。中学校3年生の一年間というなんとも中途半端な転校ですが、その後は元いた中高一貫の東京の進学校に戻れることが決まっており、気楽なものではあります。

転校を前に持病が発症してしまった彼は、学校よりも先に夜見山の病院に入院することになりましたが、クラス委員がお見舞いにもきてくれ、転校先も悪いところではなさそうです。そして、退院を翌日に控えたある日、彼は病院で不思議な少女と出会うことになるのです。転校先の中学校の制服を着たその少女は左目を眼帯で隠し、「下半分を届けにいく」と謎めいたことを口にして地下2階へと降りていきました。(後で知ることになるのですが、そこは霊安室でした)

翌日、無事に退院して学校へと行った彼は、例の少女が同じクラスであることを知ります。作り物のような青白い肌をした黒髪の少女。明確には描写されていませんが、おそらくはかなりの美少女なのだろうと察します。

しかし、程なくして彼は奇妙なことに気づくのです。

その少女、見崎鳴はクラスの誰からも認識されていないようなのです。主人公には彼女の姿は見えるし、会話もできる。それなのに担任、副担任含めクラスの誰もが彼女がいないもののように振る舞っているのでした。

異様な雰囲気を覚えながらもそれでも少女に近づいていく主人公。

そんな中、クラスメイトの一人が主人公の見ている前で凄惨な死を遂げ、そこからはじまる死の連鎖。それは、クラスに知らぬうちに紛れ込む「死者」を起因とする「三年三組の呪い」というものだそうです。「死者」を殺すことで歪んだクラスのバランスは元に戻り、死の連鎖から逃れることができるのですが、周囲はもちろん「死者」自身の記憶も塗り替えられているため、「死者」を識別する方法はありません。

誰が「死者」なのか、をテーマとして語られるストーリーは不気味さと妖美さが混在して、なるほど「囁きシリーズ」以降の綾辻行人感が満載です。ラストであかされる意外な犯人(死者)には多くの伏線が散りばめられており、知った後でもう一度読み返してみたいと思いました。

ミステリに必須の圧巻のどんでん返しはあるものの、全部すっきり解決という訳ではなく、やはりこれはホラーと呼ぶべきものなのでしょう。

メディアミックスされてかなり話題を呼んだ本作ですが、妖しい魅力のあるヒロイン・見崎鳴は確かにビジュアル映えしそうです。「館シリーズ」以来、あまり綾辻行人作品に触れてこなかったのですが、ホラー作家と割り切って読んでみるのも面白そうだなと思いました。