雑食こけしの読書録

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中西 モトオ 『鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々』

江戸時代。鬼の跋扈する世界を舞台にした伝奇小説です。

山奥のたたらばの集落、葛野には「いつきひめ」と呼ばれる巫女がいました。巫女の生肝は鬼たちにとって不死の妙薬。巫女の守護には代々、巫女守という者が当たります。
当代の巫女守は、幼少期に妹とともにこの地に流れついたという過去を持つ甚太青年。

家族同然に育った「いつきひめ」を守り続けてきた甚太の運命は、剛力の鬼と未来を見る鬼女の到来により、大きく変わります。

彼は江戸から現代にいたる、激動の時代をただ仇を討つためだけに生き続けることになるのです。


本巻はその第一作目、壮大な物語の序章に当たります。

とはいえ、うーん。
さまざまな時代をテーマに綴られる物語、という設定はいいと思うのですが、話の作り方がいまいちです。

登場人物の一人一人に感情が見えてこないと言いますか、完全にストーリーが決まっていて、それを動かすための駒でしかないという感じが強くて、行動原理にどうにも納得がいきませんでした。

もっと言えば、主人公とヒロイン格の少女のドラマを演出するために、村人も恋敵も、登場する鬼たちでさえも動かされていたという印象です。

顕著なのがここ。
ヒロイン格の少女が、自分に対して恋愛感情を抱いている幼馴染に対して口にした言葉です。

お礼って訳じゃないけど、心はもう彼に渡しちゃったから。残った体は貴方にあげる


ひどくないですか? 相手がすんごいやな奴だったらまあ、わからないでもないですけど、幼馴染で、自分に対して好意を抱いていて、しかも、自分を気遣ってくれた後に言う台詞じゃないと思うんですよね。

そう考えると、そもそも兄妹が村にやってくることになった経緯もリアリティに欠けているのではないでしょうか。俺の家に来い、って徒歩ひと月かかるところに幼い子供たちを連れ出したりします?

伝奇ロマンというジャンルそのものは嫌いじゃないんです。
ただ、その細部の粗が気になって、私は入り込めませんでした。

鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々

鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々

  • 作者:中西 モトオ
  • 発売日: 2019/06/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)