雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

三浦しをん 『神去なあなあ日常』

映画Wood Job!の原作にもなった本作。かなり今更感がありますが読んでみました。

主人公は高校を卒業したばかりの今時の都会の少年・平野勇気。高校を卒業して、進学するわけでもなく、とりあえずフリーターにでもなって適当に生きていくか、と考えていた彼の将来設計は、卒業式のその日に一変します。

いつの間にか、奈良県の山奥にある神去村という土地で林業に就業することに決まっていたのでした。
訳の分からないまま、新幹線に押し込まれ、神去村へとやってきた勇気を待っていたのは、過酷ながらも人情に溢れる神去村での日々。
携帯の電波さえも届かない場所で、不本意ながらも仕事をすることになった都会っ子は、次第次第に神去村と林業という仕事に愛情と誇りを持っていくようになるのです。

林業というあまり馴染みのない職業をテーマにした話ですが、いやあ、実に面白いです。
破天荒ながらもいざという時にはこれ以上になく頼りになる勇気の居候先であり、会社の先輩でもある飯田与喜、通称ヨキをはじめ、冷静沈着で頼りになる会社のおやかたさん中村清一、三郎さんと巌さんのベテラン二人。右も左も分からない勇気を、時に厳しく、時に優しく指導し、会社にそして神去村へと溶け込ませていってくれるのです。

「なあなあ」という響きに代表されるような、のんびりした神去村の言葉はかなり危険な場面でも、なんとなくほんわかした雰囲気にさせてしまいます。

オオヤマヅミさんの祭りという、村を挙げての盛大な祭りでは、村の男たちが切り倒した丸太にまたがって斜面を降っていくという死と紙一重レベルの荒事をするのですが、その中で、余所者の勇気につれない態度をとっていた山根のおっちゃんが丸太に振り落とされて(というよりも吹っ飛ばされて)しまうのです。

それなのに、なんとか無事に村まで丸太で下りてきた村の男たちは、山根のおっちゃんのことを忘れて、麓で待っていた村の女たちと大宴会を繰り広げちゃいます。でも、神去村の人たちは「なあなあ」なので、やっとのことで戻ってきた山根のおっちゃんに対しても、こんな反応です。

当の山根のおっちゃんも、ヒーヒー言いながら広場にたどりついたとたん、冷酒を三杯もあおって、「えらい目に遭うた」と笑った。「ほんになあ」「まあ、無事でよかったなあ」と、みんなは口々にねぎらい、それで終わりだった。

ゆったりと流れる神去村の日々は、勇気を確実に成長させていました。

想い人直紀さんとの関係も気になりながら、彼はきっとこの村で骨を埋めるのでしょう。

ちょっと笑えて、暖かな気持ちになるいい小説です。

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

神去なあなあ日常 (徳間文庫)