雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

犬塚 惇平 『異世界食堂1』

街の小さな洋食屋さん「洋食のねこや」。
そこを訪れる一風変わった人たちを中心にしたオムニバス形式の小説です。

平日のランチ時には近隣のサラリーマンたちの胃袋を満足させるその店は、表向きは土日が定休日。しかし実は、土曜日は特別営業日なのです。

何が特別なのか?
土曜日だけは、異世界の住人を相手に営業をするのです。

不思議な力で土曜日のみ「ねこや」の扉は異世界の各地に出現します。
ある者は故人の手記を手掛かりに、またある者は全くの偶然から「ねこや」を訪れるのです。

二代目店主のふるう古き良き洋食は、異世界の住人にとっては未知なる食べ物。
誰もがその味に心を奪われ、週に一度の特別営業日を心待ちにすることになります。

主人公たる「ねこや」の主人はほとんど言葉を発せずに、異世界住人の視点から丁寧に描写された食べ物がメインの構成です。

メンチカツ、エビフライ、オムライスなどなど、定番の洋食メニューを厨房で淡々と作る店主は、必要以上に異世界の住人達ともかかわらず、異世界を見物しようという意思もないようです。
おいしい料理をお客さんに提供するというスタンスを一切変えることはありません。ただ、普段とは客層が一風変わってくるだけなのです。

ライトノベルの名に恥じず、さらさらと読める文体です。
一話完結とはいえ、起承転結に乏しいため、好き嫌いは別れるかもしれませんが。


元々、小説家になろうに投稿されていたというこの小説。
「ネット小説のジャンルの流行りは時勢を反映する」という意見をどこかで見たのですが、現実世界から異世界に行って無双するから、ついに、異世界にすら行かなくなってしまいました!!

こっちの世界もよいものなのだ、ということなのか、それだけ出不精になったのか、どっちなのでしょうかね。

異世界食堂 1 (ヒーロー文庫)

異世界食堂 1 (ヒーロー文庫)