雑食こけしの読書録

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荻野 慎諧「古生物学者、妖怪を掘る―鵺の正体、鬼の真実」

タイトルの通り、古生物学者である著者が「妖怪」について古生物学的観点から真面目に考察をしてみた、という一冊です。妖怪については門外漢と著者は謙遜していますが、どうしてどうして。妖怪についての造形も深く、読み物としてとても面白いです。

分類といったところを専門としているらしく、妖怪に対するアプローチも外見・生態などの特徴から、この妖怪を分類していくといったものになります。

「妖怪」(異獣・異類)は、生類の枠に当てはまる「ヒト」や「畜生」の中において、よくわからない、正体不明なものをすべて放りこんでおく「ゴミ箱分類群」としての役割が非常に大きかったと考える。

つまり、よく分からないものはとりあえず妖怪として分類しておく。それにより、妖怪は地域差や時代による差が生まれやすく、ある妖怪に対しても統一的なデザイン、生態に集約しにくいとということらしいです。

それらを細かく分類していくことで、元になった生き物を紐解いていくこともできるのです。

たとえば、有名な河童ですが、古い情報には「緑色ではなく赤色をしていた」り、「大きさは三寸程度で、水たまりに無数にいる」という記録もあるそうです。さらに、河童から傷が治る薬をもらうという話を鑑みて、これは再生能力のあるアカハライモリあたりがモデルになっているのでは? と著者は思考を巡らせます。

おそらくこれは、正解を知りようもない思考実験のようなものでしょう。ですが、このように順を追って考えられていくのを読むと、なんとなく納得してしまうから不思議です。

鵺の正体、一つ目の正体 (これは有名かもしれませんが) など様々な妖怪の正体について考察をしています。文章も軽妙でするすると読めてしまいますので、ちょっとした話のネタに読んでおいて損のない本だと思います。