雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

朝井リョウ『何者』

就活仲間として対策や情報交換を行う五人の若者の人間模様を描いた作品。
2013年直木賞受賞の本作をようやく読んでみました。

物語は五人のうちの一人、二宮拓人目線で語られます。彼は学生劇団の主要メンバーとして活躍していましたが、就活を期に引退しています。
他には、ぎりぎりまでバンド活動にいそしんでいた光太郎、留学から帰ってきたばかりの瑞樹、帰国子女でアクティブな理香、理香の彼氏である隆良。性格もバックグラウンドも就活に対する姿勢も様々な五人は、拓人・光太郎と理香・隆良がそれぞれルームシェアするアパートが一緒だったことから、頻繁に集まり、就活に励むことになります。

時折挿入されるSNSや、はたまた日常の会話からも、表向きは仲良く活動しようという彼らの関係は穏やかならざることが分かり。
そしてその不穏な空気は、就活の成果が徐々に出始めたころから決定的なものになっていきます。

これは痛い。
若さゆえ青さゆえの痛さがつらい。

「十点でもに十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうでもしないともう、見てもらえないんだよ、私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」

これは瑞樹のセリフです。自分はきっと他とは違う何者かになれると信じて、ただ走ればよかった学生時代。しかし、就活は採用、不採用で評価され続けることになります。自分は何者なのか、何者になれるのか、自分の中の定規が否定される事実。

懊悩する若さがとてもよいです。

著者のデビュー作「霧島、部活やめるんだってよ」を読んだ時はそれほどピンと来なくてそれ以降、読んだことがなかったのですが、こんなに面白い話を書く人だったのですね。もしかすると、彼らと同じ世代ではなく、上の世代になってこの生々しい苦悩から距離を置けるようになってから楽しめる作品なのかもしれません。