雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

羽根田 治『十大事故から読み解く 山岳遭難の傷痕』

山岳ブームと言われて久しい昨今。

コロナ下という状況もあり、アウトドアが人気という話もよく聞きます。しかし当然ながら、山には危険がつきものです。

道迷いや滑落、あるいは悪天候による低体温など、様々な事故が起こりえます。危険を認識していない人も、危険を承知でいく人も、心の底には「まさか自分が」という思いはあるのではないでしょうか。


本書は、戦後から現在に至るまでの重大な10の山岳事故を、当時の記録や関係者へのインタビューを通して詳細に書き起こした記録です。
台風による低体温症により児童たちが次々と命を落とした事件、谷川岳で起きたクライマーのザイル宙吊り事故、落雷による死亡事故などなど、読んでいてその凄惨さに気分が沈んでしまうほどです。

ですが、山を楽しむ者として、山の楽しさと同時に恐ろしさもきちんと理解しておくべきだと私は思います。後からこうするべきだったと責めるのは簡単ですが、そこから得られる教訓を身にすることの方が大切なことではないかと。

万一のことが起きた際、明暗を分けるのは、備えること、自分の体調を可能な限り万全にすることであることを本書を通じて実感しました。

ただ、いちばんたくさんの食糧を携行し、行動中やビバーク中にもできるだけ補給するようにしていたのが、生還者の一人である平柳であった。


しかし、何よりも事故の多くを通じて思うことは、撤退する勇気です。
事故に遭わないためには、最悪を想定して判断をしなければなりません。

本書は、その最悪が自分の思っているよりも凄まじく、そして容易に起こりうるということを伝えてくれます。

山に行くのであれば、一度は読んで自分を顧みる必要があると、そう思います。