雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

小林 泰三『失われた過去と未来の犯罪』

人類が記憶を持てなくなった世界を舞台にしたSF小説です。正確には短期記憶はあるのですが、それでも長くてせいぜい10分程度で日常生活を送ることなどとうてい無理です。
やがて、人類は失った記憶能力の代わりに、外部の記録媒体に自分自身の記憶を保存して、リンクを取りながら生きていくことになるのです。

本書は大きくふたつの部分から構成されて、前半では突如、長期記憶を失った事態に直面した人々の戸惑いと混乱、後半は記録媒体に保存した自分の記憶を使い生活を送るようになった人々にまつわるトラブルが描かれています。

人々が自分の脳の拡張として使う記録媒体は、体に埋め込まれてはいるものの取り外し可能なため、うっかり他人のものと入れ替わってしまうことも起こりえます。下のような感じで。


【自分の記憶が消えて、見知らぬ男性の記憶が入り込んだと考えるよりは、自分が見知らぬ女性の身体の中に入り込んだと考えた方が幾分理解しやすい。】


これって昔の手法でいうところの、頭をぶつけて入れ替わっちゃった!!ってやつですよね。SFで書き直すとこんな風になるんですね。

人間の魂は身体に宿るのか、それとも記憶に宿るのか。とても深いテーマで考えさせられます。
連作短編的な構成が、実は一本の流れで、しかもタイトルに帰結するという作りがまた実にうまい。
(詳しく書きたいのですが、ネタバレになるので自粛します)

ホラーの名手の小林泰三ですが、グロいシーンはないので、そういうのが苦手な人でも安心して読めます。


失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)

失われた過去と未来の犯罪 (角川文庫)