雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

鈴森 琴『忘却城 鬼帝女の涙』

私の心をすさまじい強さでつかんでいった「忘却城」の続編。
今回の主人公は、名付け師・縫の百人の御子のうち八十四番目の死霊術師の青年・魘神[えんしん]です。

死霊術と呼ばれる死者をよみがえらせる技術により大きな力を得た王国。しかし、その設立には呪わしく陰惨な歴史がありました。
それは、先に王国を築き上げていた千形族と呼ばれる人たちを虐殺したこと。

特に有力な二十四人は、巨大な水晶を首にかけ湖に突き落とす湖刑にかけて溺死させるという徹底ぶりでした。
そのようにして築き上げた王国は、しかし、千形族の呪いが染みついていたのです。

二十四大鬼と呼ばれる恐ろしい存在です。

二十四大鬼は、湖刑を受けた千形族の死霊が幽鬼に堕ちたものとされ、姿形、特性はそれぞれの千形族に似て、出現も処刑された順だという手の込みよう。その強大な力ゆえに、幽鬼の退魔を得意とする死霊術師でさえも退魔不可能と言われるほどです。
そのうちの二十二番目の大鬼、つまり、二十二番目に処刑された千形族の幽鬼が長い眠りの果てに目覚めたという情報が、死霊術師たちの住まう昇雲山に入ってきました。
退魔不可能な大鬼の出現に混乱する御子たちの中、名乗りをあげたのは、才はあるものの、病弱な御子・魘神です。彼は、死刑の代わりに昇雲山に身を寄せる大罪人の雲龍を用心棒に、二十四大鬼の退治に向かうことになりますがーー

厨二エログロ全てが完璧に詰め込まれた世界観は前回と同様かむしろそれ以上です。
さらに今回は、死霊術師の軛から解放された死者たちが主体となる第三の権力組織・予言院の登場、謎多き美女雲龍の過去も語られて、盛沢山の内容でした。

本シリーズの魅力である独特の世界観は、魘神の兄にあたる御子のこのセリフにも凝縮されています。


【「生者にしては働き者じゃないか! 魘神が喜ぶよ。あの子は霊昇山の、期待の星だ。そうでなきゃ、皆こう惜しげもなく、へそくりしていた骸をくれてやるもんかね!」】


霊昇山の死霊術師は死体を使って日々、自分たちの死霊術の鍛錬と修行を行うため、自由に使える死体は彼らにとって貴重なものなのです。
それを「へそくり」と表現するところ、ぶっ飛んでいます。

解説で、「異世界に住まう人々の、心性、常識、感覚、生きかたなどのもろもろが【きちんと、違うのだ。】」と書いてありましたが、まさにその通り。ぶっとんだ世界観ながらも、不思議なリアリティがまた素晴らしいです。

次巻も早く読みたい。

忘却城 鬼帝女の涙 (創元推理文庫)

忘却城 鬼帝女の涙 (創元推理文庫)

  • 作者:鈴森 琴
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 文庫