雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

鈴森 琴『忘却城』

やばい。すごいものを見つけてしまった。
第3回創元ファンタジイ新人賞で佳作を取ったという本作。表紙が流行りのマンガチックなものだったので、一瞬躊躇いましたが、手にした自分を褒めてあげたいです。
一度手に取ったら止まらずに、そのまま続編まで買ってしまいました。

舞台は、死霊術師という死者を蘇らせる力を持つ人々が存在する世界。古代中国をモデルにしたであろうこの世界では、人々は死後、忘却城と呼ばれる場所へ行き、静かに眠り続けるのだと言います。そんな死者たちを揺り起こし、現世へと蘇らせる存在、それが死霊術です。

死霊術師の長は有能な者たちを百人、養子として迎え、霊昇山と呼ばれる一帯で一大勢力を築き上げていました。

当然の帰結として、強大な権力を有することになる死霊術師たちの間、そして王族との間には、激しい権力闘争が渦巻いています。そんな権力闘争に(半ば強制的に)巻き込まれることになった青年儒艮が一応の主役とされていますが、本質は凄惨な歴史と権力争いの中で戦う数多の人々の群像劇です。

死者は蘇るという常識の世界なので、死に対する考えが非常に独特です。蘇らせる時の障壁にならないように殺すーー具体的には、外傷のないように溺死させるのが一般的な刑罰という恐ろしい世界です。

これは褒め言葉なのですが、厨二的な世界全開でたまらないです。
なんというか、かっこよくてグロテスクで残酷なものを全て詰め込んで、緻密な世界を作り上げた理想形が本作なのではないだろうかと。


【「あれは良い瑞鳥克氏だったが、烏のように狡猾でもあった。もし、氷飛雪が蘇るなら……彼の飼い鳥は、籠に戻さねばならぬ。いらぬ言葉を囀る前にな」】


こんな台詞を放って改章。
センスがもうかっこいい。

私はけっこうグロテスクな小説を読むのが好きなのですが、これは本当にすごい。美しくもグロテスク。非常にビジュアルを意識した作品です。

ここまで独特の世界観を作り上げる著者の想像力と力量に感服しました。


忘却城 (創元推理文庫)

忘却城 (創元推理文庫)

  • 作者:鈴森 琴
  • 発売日: 2019/02/20
  • メディア: 文庫