小林 泰三 『アリス殺し』
大学生である栗栖川亜理は毎日のように、不思議の国でアリスが奇妙な仲間たちとかみ合わない会話を楽しむ(?)夢を見ていました。
この夢の記憶が他人と共有されていることを、亜理は同級生の井森(不思議の国での人格はお間抜けなトカゲのビル)から教えられます。
変な夢だと単純に片づけるわけにはいかなそうだと思っていた矢先、不思議の国でのハンプティダンプティの殺人事件に呼応するように、ハンプティダンプティの”こちら側”の人格である学生が墜落死する事件が発生します。
どうやら不思議の国で次々に起きる殺人事件と、地球での死がリンクしているようなのです。
警察を気取る、帽子屋と三月兎から不思議の国での殺人容疑を着せられてしまったアリス。自身の無実を証明するために、井森・ビルと真犯人の捜査を行うことになりますが、その真相は――
不思議の国アリスそのままの世界を舞台に、引き起こされる殺人事件の陰惨さは、さすがはホラー作家と思わせるグロテスクさです。
次第次第に救いようのなくなる物語の中、お間抜けトカゲのビルのキャラクターがとても魅力的です。
【「ビルが嘘を吐くことはあり得ないわ。嘘を吐くには、想像力が必要だから」
「私らもそう考えている。ビルには嘘は無理だ」
「ねえ。僕のこと褒めているの?」】
こういう、噛み合っているようで全くかみ合わない会話が、破綻することなく、伏線にもつながっていくところはさすがにうまい。
最後の最後でのどんでん返しから続く、残酷な勧善懲悪も童話っぽくていいです。
この展開を読む限り、不思議の国だけじゃなくて、鏡の国のオマージュも入っているのかもしれません。
続編も読もう。
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