山田 風太郎『風来忍法帖 山田風太郎忍法帖(11)』

言わずと知れた山田風太郎の大傑作忍法帖シリーズの一冊です。
もちろん、既読ではありますが、衝動的に読み直しをしたので、改めて感想を。

時代は安土桃山。豊臣秀吉が天下統一の総仕上げとして、北条家を滅ぼしにかかったその時です。舞台は「のぼうの城」でも一時期脚光を浴びた、忍城です。
主人公は7人の香具師[やし]たち。彼らは若干ヤクザ的なところもあるのでしょうか、流しで様々な商品を売る一方、たらしこんだ女性を売り捌くという阿漕な商売をやったりしています。その日一日を楽しく過ごせればそれでいい、という彼らはある日、運命の女性（少女）に出会います。

少女の名前は摩耶姫。
勇婦として名高い美少女は彼らの悪事を詰問し、彼らを手ひどく痛めつけます。

いたくプライドを傷つけられた彼らは、復讐のため麻耶姫を「よつにかまる」（＝強姦）することを目標としてかかげることになりました。

ところが、麻耶姫の身辺を守るのは、北条家の守りで名高い風魔忍者たち。近づくのさえも一筋縄ではいかない状況下、彼らはなんと風摩での修行までこなしてとうとう摩耶姫のいる忍城へと入り込むことに成功します。それもこれも、麻耶姫を「よつにかまる」ため、とあくまでも彼らは言い張りますが、実際のところ、完全に麻耶姫に心を奪われているわけです。

切迫する戦況で、かつて麻耶姫を守っていた風摩の忍者たちは豊臣家に取り入るために、麻耶姫を狙う立場へと変わってしまいます。
いつのまにか、攻守が逆転した香具師と風摩の忍者たち。

面白おかしく生きることが信条の香具師たちは、凄惨な戦いへと身を投じていくのです。
一人、また一人と仲間たちが風摩の忍者たちとの戦いで命を落としていく。それでも、彼らは麻耶姫のために戦い続けます。

なんなんでしょうね、麻耶姫と出会う前の彼らは立派な（？）悪党で、捕まったら極刑もやむをえずレベルな気がします。それなのに、彼らの死闘を見ていると、じんわりと胸をつかれてしまいます。げに恐ろしきは、麻耶姫の魅力といったところでしょうか。やさぐれたヤンキーが、美少女委員長のために人肌脱ぐ的な。

ああ、なるほど。
この時代のヤンキーを描こうとしたら、犯罪レベルをさせないとダメかもしれませんね。

【七人の香具師がはやしながら、唄いながら、のんきそうに飛んでゆく。】

ラスト近くのこの描写はもう、切なくて切なくてたまりません。
七人も個性あふれる香具師を出しておきながら、全員に見所と思い入れを与える山田風太郎の腕に感服です。忍法帖シリーズの中では比較的長い方ではありますが、忍法八犬伝と並んで私の好きな作品です。

風来忍法帖 山田風太郎忍法帖(11) (講談社文庫)