雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

羽根田 治 『 ドキュメント 気象遭難』

「山岳遭難」に引き続いて、ヤマケイの遭難関連の記録です。
タイトルの通り、今回は気象を原因として生じた遭難をテーマにしたものです。一口に気象と言っても、よく想像するような吹雪によるものだけではありません。

気温の低下、落雷、あるいは突風によるものまで山に潜む気象の危険は様々。
本書では、春夏秋冬それぞれの季節に起こった事故を網羅し、登山者への警鐘を鳴らしています。


読んでいて印象的だったのは、ツアー登山で発生した遭難事故と登山の熟練者の遭遇した事故との温度差です。ツアー登山に参加した人たちは、やはりガイドの指示を待つことになってしまい、そしてガイドと客という体制が機能しなくなった際には、個人行動に走り、運が良ければ助かり、そうでなければ最悪の事態に陥るという一か八かの行動をとってしまうように見えます。

自分を顧みたときに、そんなことをしていないかと言われると、もちろんそんなことはありません。しかし、どんな山であっても、誰と行く山であっても、自分で帰れるくらいの技量と準備は欠かせないのです。山はいつ牙をむくか分かりません。

これは自分へのいましめとして。


一方で、冬の剱岳を舞台にした気象遭難事故では、当事者全員がトップクラスのクライマー。何日も雪の積もった岩壁の中腹でテントにこもっての避難を余儀なくされるのですが、そこに悲壮感が一切ないのがすごいです。

後日、当事者からのインタビューを載せた箇所で、こんな発言がありました。確かに、事故が発生した時に、取り乱してはいけないというのはわかっていますが、果たして実践できるものでしょうか。

今思うと、四人が四人とも見栄っ張りで、お互いに牽制しあっていたからまだよかったんじゃないかなあという気がする。ああいう状況では、パニックになるのがいちばん怖いから。

本書では珍しく、パーティー全員が無事に救助された事故だったので、笑い話にできるということなのかもしれませんが、それでもこれは、全員の技術と経験値が非常に高いからこその話でしょう。
保温と食料はとても大切です。