赤松 利市『藻屑蟹』
大藪春彦新人賞受賞作。
福島原発の除染作業員をテーマにした作品で、著者自身も除染作業員をしていたそうです。
主人公の木島雄介は、福島のとある寂れた街で生まれ、そしてそのまま人生を終えるのだと半ば諦めたような日々を送っていました。ある日、大地震が東日本を襲い、福島の原発事故が発生しました。
その映像を目にした雄介は、何かが変わると期待を抱くのです。
つまらない日常が一変する、そんな願望のような期待のような思いです。
しかし、雄介の生活に変化はなく、見慣れぬ除染作業員と、賠償金を懐にした原発被害者が街に流れてきただけです。変わりたい、でも何もできない。そんな閉塞感を抱く雄介は、高校時代の友人からの紹介で、除染作業員として働くことを決めるのです。
除染作業に関する闇事情、そこに蠢く大金。
変化を望んでいた雄介はこれまでとは全く違う世界を前に、どう決断するのか――
うーん。面白くないわけではないです、ないんですが、小説としてはどうなんでしょうね。思わせぶりな登場をしたキャラクターが全然大したことない、みたいなのが多くて、この後どうなるのだろうというわくわく感を全て潰されてしまったような感じがします。
あと、今までずっとバカっぽい感じで通していた人物が突如、賢くなってとうとうと語りだしたり。人間がまるまる入れ替わっちゃった?レベルで、興醒めしてしまいます。
除染作業員としての経験はとても貴重で、淡々とした文章は読みやすいですので、どちらかというとルポとして書いたほうがいろんな人の共感を得られやすい気がします。
(ハードボイルド系の文章が個人的に苦手、というのもあったのかもしれませんが)
小説としてのピークは、おやじさんが死ぬところではないでしょうか。
残念ながら、あとは長い長い蛇足です。
小説全般がそうだと言われたらその通りなのですが、作者の個人的意見が随所に存在しています。意見が合致すればいいですが、合わなかったら鼻につくかもしれません。
これはその通りだな、と思った部分ですので、残しておきます。
「純也は、あれはあれで、いい奴なんだが、魚が嫌いだと、ヤマメを喰わなかった。そりゃ、人間誰しも、好き嫌いはあるだろうが、嫌いという言葉を、大の男が使うのはよくない。せめて苦手というべきだな」しみじみと言った。