雑食こけしの読書録

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冲方 丁『戦の国』

戦国時代を駆け抜けた武将たち。
それぞれの想いと生き様を描いた短編集です。

織田信長にはじまり、上杉謙信、大谷刑部、小早川秀秋と、有名どころばかりが続くので、どういう経緯の小説なのかと思ったら、歴史ムックの特集だったようです。
有名な武将を主役においた時代小説はもはや出尽くした感があるので、最近は目先を変えたものが多いのですが、こういうのもたまには悪くないですね。

とはいえ、冲方丁レベルでないと面白く仕上げられないかもしれませんが。
「光圀伝」で見せた絶妙な切り口を本作でも余すところなく発揮してくれています

今や、卑怯者の代名詞にもなってしまっている感のある小早川秀秋の内なる信念、反逆者明智光秀が主君織田信長に注いだ歪んだ愛、豊臣家の没落の象徴たる豊臣秀頼の狡猾かつ勇猛な戦い。

後世に悪い印象を与えて残っている人物のかっこいい生き様は、汚名返上どころか、新たなファンを生み出すきっかけになるのではないでしょうか。

秀吉の不興を恐れ、明日どこへ行くかもわからず、寄る辺もないまま何者にもなれずに過ごしていた日々を、遠く背後に置き捨て、生まれて初めて自分の力で思う存分、走り抜けることができたのである。


後に関ヶ原で家康側に寝返ることになる小早川秀秋朝鮮出兵での独白です。

海を隔てた異国の地で行われる、果てもなく希望もない修羅のような戦いの日々。しかし、秀吉の養子として育ち、生殺与奪をずっと秀吉に握られていた彼にとって、己の力で己の命をつかみ取ることができるという稀有な機会だったのです。

死生観が今とまるで違う世界をどう捉えるかに作家の価値観もかいまみえて、時代小説は好きです。


戦の国

戦の国

  • 作者:冲方 丁
  • 発売日: 2017/10/19
  • メディア: 単行本