雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

近藤 史恵『茨姫はたたかう』

合田整骨院シリーズの続編です。このシリーズのテーマは、世の中で息苦しくも生きている女性に着目したものなのですね。

今回のヒロインは誰にでもいい顔をしてしまうがゆえに、同性からは嫌われ、異性からは勘違いをされがちな、優等生タイプの久住梨花子。
両親から女性らしくあれ、と言われ続けてきた彼女が初めての一人暮らしに選んだのは、もちろん、女性専用のマンション。しかし、彼女の両隣に住むのは、すれたヘビースモーカーのイラストレータ早苗と、距離感の近いホステスの礼子という、これまでに彼女の付き合うことのないタイプお女性でした。

引っ越して早々に梨花子は、自分がストーカーの被害に遭っていることに気づきます。しかし、八方美人なその特性から心当たりがありすぎて、犯人を絞り切ることができません。
そんな中、シリーズのヒーローたる合田力と接触したのは、イラストレータの早苗です。折も折、雑誌編集者の小松崎はストーカーに悩む女性の特集記事を書くようにと業務命令が。ということで、三人の女性と合田・小松崎はストーカーを捕まえるための行動に出るのです。

まだ二巻しか読んでいませんが、このシリーズ、合田力に魅力がある一方で、ヒロイン役の女性側に感情移入ができないです。被害者意識満載の独白が鼻についてしまいます。今回の梨花子も例に漏れず。

さて、対ストーカーという意味では、合田・小松崎が助けたのは、梨花子ただ一人とはいえ、早苗、礼子の二人も救う結果をもたらしました。ぎくしゃくした三人の関係が、すっかり打ち解けた証拠としてのこの描写はシンプルながらも素敵です。

彼女は煙草に火をつけると、煙を吐いた。
「最初は苦手だと思っていたけどね」


誰に対しても完全装甲で立ち向かう早苗が、梨花子にたいして放った台詞です。自分のことをクソ真面目な性格だなあ、と嘆息した梨花子に、まあいいんじゃない、とあっさりと早苗は言って、上のセリフです。(まあ、本当に彼女がクソ真面目かどうかは置いておいて、ですが)
きっと、煙草の煙を吐くのも照れ隠しみたいなものなのでしょう。

すっきり読みやすい小説です。案外、自分を省みるとこんな感情で渦巻いているのかもしれませんね。

茨姫はたたかう (祥伝社文庫)

茨姫はたたかう (祥伝社文庫)