雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

近藤 史恵『カナリヤは眠れない』

大阪心斎橋の雑居ビルの屋上にプレハブ小屋の居を構える、合田整骨院
その院長である合田力は、人間の「身体の声」を聞いて、その処方を決めることのできる非常に優秀な整体師です。

合田力のもとへ訪れる患者たちの心の闇を描いたシリーズ一作目となる本作は、雑誌編集者・小松崎と、専業主婦・隅田茜の2つのパートから構成されています。
同僚からの紹介で合田整骨院へ行った小松崎は、そこで助手を務める美人姉妹の妹・江藤歩に恋をして以来、せっせと通いつめています。

身分不相応な金銭感覚をもつ女性というテーマで取材をしていた小松崎がたどり着いたのは、偶然にも同じ合田整骨院に通う隅田茜でした。

彼女は、クレジットカードによる多重債務に苦しめられた過去を持ち、結婚した今も、夫に秘密の借金を抱えていました。苦悩が体の不調として現れ、整骨院を訪れた墨田茜の「身体の声」を聞いた合田力は、彼女を取り巻く異常な環境に気づくのです。合田と小松崎は、彼女を悪意の中から救い出すことができるのか。

文章もストーリー構成もさすがに上手い。するすると一気に読めてしまいます。

ただ、残念ながら今回のヒロインたる墨田茜にどうしても感情移入できません。カードローンで失敗した過去も、理由があるとはいえ夫のカードを使いまくる現在も、心の隙間を埋めるために未成年の少年を囲う行為も。
一人称で語られるだけに、茜の被害者意識の高さが大変鼻につきます。
まあ、被害者であるには間違いないにしても、全てが許された感で終わるのはなあ……

とはいえ、合田力の人物造形は非常に魅力的で、心の傷を抱える江藤姉妹、冴えない純朴な青年小松崎の今後は気になるところです。


【「だがな、小松崎。健康な心を持っているやつにも二種類おるんやで」】


墨田茜を助け出すために、夜の大阪を自転車の二人乗りで疾走する合田力が小松崎に語った言葉です。以降に続く言葉は、含蓄があって自分の身につまされるようです。


カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)

カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)