今村 翔吾 『夜哭烏 羽州ぼろ鳶組』
ぼろ鳶シリーズの第2作目。
再び時代小説に戻ることにしました。
1巻で火喰鳥としての情熱と矜持を取り戻した松永源吾ですが、そんな彼が守りたいとする江戸に不穏な火事が発生します。
江戸の火消しは、士分の火消し隊が太鼓を打ち、その後に町火消しが半鐘を打ち、消火に取り掛からなければならないというルールが定められています。身分制度ゆえの珍妙なルールではありますが、守らねば下手すれば死罪という重たいルールです。
しかし、真っ先に叩かれるはずのこの太鼓が叩かれないことが頻発しているのです。
太鼓が叩かれない限り、町火消したちは炎が広がっていくのをただ眺めるほかありません。
源吾をはじめとする「ぼろ鳶」が調査を行った結果、関係者の身内が何者かに攫われ、脅されていたということが分かるのです。
そして、その魔の手は江戸一の火消しと名高い「加賀鳶」の頭で「八咫烏」との異名を持つ、大音勘九郎の一人娘・お琳の手にまで伸びてきます。
江戸火消しとしての誇りと、愛娘の命とを天秤にかけねばならなくなった勘九郎は、ただ一人、懊悩し、そして下した結論はーー
いやあ、実に熱い話です。
源吾と勘九郎は互いに認め合っているものの、それはザ・ライバルという感じで、絶対に馴れ合ったりはしません。でも、江戸を守りたいという思いは同じ。
登場人物はみんな魅力的なのですが、源吾の側近である鳥越新之助という3枚目キャラが好きです。剣の達人なのですが、普段はそんな素振りを一切見せず、「ぼろ鳶」の仲間たちからも、親しみを持ってからかわれるという愛すべき人物です。
「誰のことです? はにゃ方様ですか?」
源吾のしっかり者の妻・深雪に、新之助は毎回やり込まれているのです。それゆえに、奥方様というべきところで、「あの人は般若だ」という深雪への思いが、混ざった結果こんなセリフに。
深雪も意地悪はするものの、新之助にも信頼を置いているようですので、こういうやりとりはある意味お決まりパターンという感じで心地よいです。
新たな「ぼろ鳶」の仲間も増えて、続きが楽しみです。
- 作者:今村翔吾
- 発売日: 2017/07/12
- メディア: 文庫