今村翔吾『火喰鳥羽州ぼろ鳶組』

江戸一の火消しと名高かった武士火消し・松永源吾。
ある事件をきっかけに、火消し稼業からは引退していた彼のもとを一人の男が訪れるところからストーリーは始まります。

出羽新庄藩から来たという男の目的は、源吾に火消し部隊を作ってもらうということでした。
しかし、用意できる金はごくわずかな上、火消し隊の人数は少なく、士気も低い、ときています。

「火喰鳥」とまで呼ばれた男の大奮起が始まります。

これまで読んだことのない著者の小説だったので、不安交じりでしたが当たりでした。

資金不足のため、金を積んで優秀な人物を引き抜くということのできない制約下、有望な人を求めて江戸の町を部下の鳥越新之助とさまよう源吾が出会うのは、才能に限界を感じた相撲取り、恋破れた軽業師など一癖もふた癖もある人物ばかり。そんな彼らが、源吾のまっすぐで熱い思いに惹かれて集結していくのは、まさしく王道です。

火消し部隊にも、いろいろな役割があって、類焼を防ぐために近接の建物を壊す部隊、纏をもって屋根へと上がり、命がけで消火の旗印となる役割、効果的な消火のために風向きを予測する役割などなど。
個性的な仲間たちは、自分の特技を生かす道を見つけることができました。

本作のクライマックスは、江戸の広域にわたって発生した大火事です。
被害の拡大を防ぐための家屋の取り壊しに対し、権力を持つ豪商が自分の家に対するそれに対してストップをかけてきたのです。
結局のところ、雇われ者の火消し隊。他の隊はその依頼（という名の脅迫）を無視することはできません。

【「平たく申せばぶっ壊せということ」】

しかし、源吾の部下であり、風を読む軍師的な立ち位置の星十郎はきっぱりとこう言い放ちます。
若干コミュ障気味で、打ち解けているのかいないのかよく分からない人物だったのですが、源吾の部下たちがその言葉を待ちわびていたように壊しにかかるのが心地よいです。
全く良いチームです。

そして、自分を見失い、生きる道を失っていた彼らを情熱で救い上げた源吾は、最後に、その仲間たちによって火喰鳥としての自分の道を取り戻すことになります。

ザ・王道。
でもそれが実にいい。

キャラクター造形も豊かで、ドラマ化されてるんじゃないだろうか、と思って調べてみましたが、ラジオドラマだけみたいです。
ドラマになったら映えそうなものですが、どうなんでしょうかね。

たくさんシリーズが出ているようですので、次も読みます。