高江洲 敦 『事件現場清掃人 死と生を看取る者』
孤独死は遺体が長時間発見されることなく部屋に放置されることが少なくありません。
その場合、腐りはじめた遺体から体液が流れ出て、腐敗臭が部屋中に充満することになります。
このような状態になった部屋を人が再び住めるように清掃する、それが「特殊清掃」と呼ばれる仕事なのです。
本作は、特殊清掃を生業とする著者が見つめた、故人と故人を取り巻く人々の話です。
当然、故人が物を言うことはありません。しかし、その部屋の様子、遺品、そして故人を取り巻く人々から、生前の姿を想うことはできるのです。
故人が生前に築き上げた深い人間関係に思いを馳せたり、離婚した妻と故人との間の愛情に感動したり、あるいは、幼い子供までも道連れにした無理心中現場でショックを受けたりーー
特殊清掃という仕事に、これだけ感受性が豊かでやっていけるのだろうか、と思ってしまいますが、だからこそ、【真の依頼人は故人】という思いを持って続けていくことができるのでしょう。
孤独死の現場は、当たり前ですがぐずぐずの遺体から流れでた体液、発生した蛆虫などで、凄惨な状態です。一部、現場写真が掲載されていたりもします。しかし、著者が故人に対する尊厳をきちんと抱いているからでしょうか、タイトルから想像されるほどの悪趣味な印象は受けません。
私はこの「自分の幸福が人の不幸の上に成り立っている」というある種の矛盾に、長い間葛藤を感じてきました。
不幸な事件・事故により、誰にも看取られることなく死んでいく人がいなければ存在しない職業。それは重要である一方、需要は少ないほうがいい職業でもあります。
コロナ禍の昨今、どう生きるかだけでなく、どう死ぬかも考えさせられる本でした。
ちなみに、表紙は漫画家の花沢健吾によるもので、「アイアムアヒーロー」を描く際に、取材で現場清掃を経験した時から付き合いがあるそう。それもまたプロ意識というものですね。