稲垣 栄洋 『生き物の死にざま』
さまざまな生き物の生き残り戦略を書いた本です。
といっても、個体としてではなく種としての遺伝子を残すための戦略です。
生き物たちにとって最優先事項は、自分の遺伝子を子供へ繋げることであって、それにともなって自分たちが命を落とすことは仕方ない。いや、むしろそうあってしかるべきなのです。
つまり、タイトルが意味するところは、「生き物はいかにして遺伝子を残し死んでいくのか」です。
- 命をかけて卵を守り、最後には孵化した子供たちに己の体を食わせる生き物
- 卵を産むためだけに生涯を捧げ、歩くことすらできない生き物
- 自分の姉妹を守るために幼体のままで兵士として一生を終える生き物
多種多様な生存戦略をもって遺伝子を残し続ける生き物たちは、強かで儚く、それでいて美しささえも感じます。
交尾の最中にオスを食うということから、毒婦の代名詞として扱われることもあるカマキリですが、産卵は多大な栄養を必要とする行為。オスを食べることで、豊富な栄養を摂取できたカマキリのメスは、より多くの卵を生むことができるそうです。
確かにメスから逃げ切ることができれば、オスは交尾のチャンスを増やすことができる。しかし、子孫を多く残すことがカマキリにとって成功であるならば、メスに食われて死ぬことも、けっして無駄なことではないのだ。
人間から見て残酷だと感じたとしても、果たしてそれは彼ら自身にとって残酷なことなでしょうか。
生き物の遺伝子を残すための壮絶な戦略を、本能の壊れかけた人間は敬意をもって見守るべきなのかもしれないですね。
知的好奇心が満たされると同時に、考えさせられるとても面白い本です。