泉谷 閑示『仕事なんか生きがいにするな 生きる意味を再び考える』
なんとも挑戦的なタイトル。
そうです、私は仕事なんてしたくないので、この本を手に取りました。
様々な患者へのカウンセリングを行なってきた精神科医の著者が、仕事は果たしてそんなに重要なのか? 生きる意味とは何か? ということを解きほぐした本です。
そもそも、労働というのが大切だと考えられるようになった歴史はそんなに長くないのだ、と著者は言います。古代のギリシャでは、労働というのは下等な者が必然に駆られてすることであって、人間として生まれた以上、記録に残るような偉大なものを残すべきだと考えられていた、と。
古今東西の思想家、詩人、文人などの言を引きながら、論が展開されていきます。
うーん、私はずいぶんと退屈な本だなあ、と思ってしまいました。
著者に教養があるのは認めます。認めますが、「働くことになんの価値があるのか?」という悩みを持つ患者に対して、「ニーチェはこう言った、オスカー・ワイルドはこう言った。だから、そんなことは思い悩む価値もないのだ」みたいなことを言うのでしょうか。
タイトルが内容と合っていないだけかもしれませんが、もしも、著者がこの姿勢で患者と向き合っているのであれば、ピント外れな回答をしているような気が……
多数引かれた古典の中で、面白いなあと思ったのはこれです。イソップの寓話に含まれているそうです。
【現在の蟻は昔は人間でした。そうして農業に専念しましたが、自分の労働の結果では満足しないで、他人のものにまで羨望の目を向けて始終隣人たちの果実を盗んでばかりいました。ゼウスは彼の欲張りなのにお腹立ちになって、その姿を蟻と呼ばれているこの動物にお変えになりました。】
なんと、蟻は勤勉で見習うべき象徴ではなかったのです。目先の労働の奴隷となり、今を楽しむこと、生きることを放棄したそんな存在なのだそうです。
私も、ある一面だけを見て、思い込んでいるようなことがたくさんありそうです。
仕事なんか生きがいにするな 生きる意味を再び考える (幻冬舎新書)
- 作者:泉谷 閑示
- 発売日: 2017/01/28
- メディア: 新書