雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

矢部 嵩『〔少女庭国〕』

とある女子高校三年生の仁科羊歯子は、卒業式会場へと向かう途中、いつの間にか自分が見知らぬ部屋で横になっていることに気づきました。小さな部屋には向かい合うふたつの扉があって、一方にはノブがなく、羊歯子側からは開けることができませんが、もう一方にはノブがあり、その横には一枚の貼り紙がありました。


【ドアを開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。】


羊歯子が扉を開けた先には、同じような部屋があり、そこには一人の女生徒が横になっていました。
そうです、各部屋から開けられる扉はひとつで、部屋にいる卒業生もひとりずつ。脱出のためには開けた扉の数だけ、女子高生は死ななければならないことを意味します。

舞台設定は完全にバトルロワイヤルもの。普通なら、ここで女生徒同士の殺し合いが始まる場面です。しかし、しかしです。著者はそんな安易な展開を選択したりはしません。全員での話し合いの結果として、少女たちは面白おかしく今を過ごすことに決めるのです。
電気はもちろん、水も食料もない空間なので、その楽しいときも長くは保ちません。
少女たちが最後に下した決断とは――

この発想の妙もありますが、なんと表題の物語は四分の一で終わってしまいます。そこから始まる「少女庭国補遺」のすさまじいこと。おそらくは無限に広がる小部屋の中に、無限に閉じ込められた少女たちの様々な選択とその発展の歴史が、著者の想像力の限り語られるのです。

二人で殺し合いを始める者もいれば、仲間たちと一代王国を築く者までいます。発展のための資源(労働力兼食料)はもちろん、無限に広がる小部屋で眠る少女たち。しかし皆、女子校の生徒のため、どんなに発展したとしても、子孫を残すことはできません。

そんな中、これ、とても私に刺さりました。


【「十五歳の母!?」
世界は救われたが数億年で滅んだ。】


よくもまあ、こんな発想ができるものだと。
おもしろくて、一気読みしました。

〔少女庭国〕 (ハヤカワ文庫JA)

〔少女庭国〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:矢部 嵩
  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: 文庫