雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

前川 裕 『クリーピー』

もしも、隣人が本当の隣人になりすました人物だったら?
隣に住む人当たりのいい人物が見せかけのものだったら?

近所付き合いが希薄になっているという言葉はもはや耳たこの昨今。
表面だけを取り繕った隣人の正体を果たして、日々の一言二言の会話で見抜けるのか、と言われると確かに自信がありません。

本書はそんな奇妙で不気味な隣人をテーマにしたミステリ小説です。

最初は予期のような小さな不安が徐々に積み上がり、取り囲み大きな形となっていく様子が、主人公である高倉の視点で語られます。
隣人に対するちょっとした引っ掛かりや不信感が疑惑となり、そして確信へと変わっていくのです。しかし、その隣人は到底主人公の手には負えない「悪の天才」でした。

主人公は犠牲を払いながらも、「悪の天才」を追い詰めようとしていくのですが……

正直なところ、作者はあまり文章がうまくないです。
でも、ほんのりと嫌な予感が漂う序盤は引き込まれます。

伏線は全て回収できていますので、デビュー作ということを考えれば、十分に及第点のできなのかもしれません。
ただ、ご都合主義なところがなんとも。

チェックした限り2回、「それで思い出しましたが」という流れで重要情報を提示するシーンがありました。これはいただけませんね。

そして、なんといっても最後の種明かしのご都合主義のオンパレード。
(ネタばれ防止のため伏せますが)
まず凶器(そんな刑事はいない)。
次にトリック(DNA鑑定で犯人が警察をだましたくらい衝撃)。

ここはなあ……

続編続々編も出ているみたいですので、改善されているのでしょうか。
試しに読んでみたい気もしますが、他の積読が終わってからですね。

でも、最後のこの一文はよかったです。
余韻のある終わり方。いいです。


【矢島善雄は、依然として逃走中である。】


クリーピー (光文社文庫)

クリーピー (光文社文庫)