白井 智之『おやすみ人面瘡』
デビュー作「人間の顔は食べづらい」のグロテスクなディストピアに衝撃を受けて、これが著者の小説を読むのは二作目です。
グロさは相変わらずで、語弊があるかもしれませんが安心します。
本作は、人面瘡が体にできるという病気(というかバイオテロ)が発生した後、という舞台設定です。
人面瘡は人間本体に寄生し、いずれはその脳の機能を奪ってしまいます。
とはいえ、人面瘡自体もその多くは知能といえる知能を持つものはなく、罹患者はいずれもとは人であった知能を持たない何か、に成り下がってしまうのです。
主人公挌の一人であるカブは、人間ヘルスと呼ばれる、人面瘡の患者による性風俗を行う店で働く若者です。
この世界で“人間”という単語は、“間引かれた人”のスラングだそうです。センスがやばいです。
新人を受け取りに、というよりも買い付けに後輩の地元へと行ったカブが見たのは、もはや化け物と化した”人間”。彼女を連れて帰った時から、不可解な事件に巻き込まれていくのです。
カブの視点から語られる「fat girl」と、中学生サリーの視点から語られる「school girl」。
それが交差していった先にあるのは、もはや悪夢としか言いようのない真実です。
グロいです。それはもう。
しかし、著者がやりたいのはあくまでも謎解きなので、人としての機能をなくした“人間”に対しても、理詰めのトリックを仕掛けてきています。そこには、著者の偏執狂じみた熱意を感じざるをえません。
【追い詰められたお前は、決死の覚悟で首に穴を開けた】
例えばこんな感じです。普通の人間は、首に穴を開けたら死にますよね。
(これくらいならネタバレにはならないと信じています)
あまりに執拗な種明かしに、「マジか、知らんがな」的なことも思ったりもしますが、少しねじの外れた感じで私はとても好きです。
最後の一文は、ちょっと切なくなりますね。
- 作者:白井 智之
- 発売日: 2017/08/25
- メディア: 文庫