雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

恒川 光太郎 『スタープレイヤー』

チート能力を持っての異世界転移。

Web小説界隈ではそういう設定がブームです(でした?)。冴えない人生が一気に華々しいものへと切り替わり、転移先の異世界では思うがままに物事が運び、紛れもなく自分がスターで主人公。異世界での一発逆転です。ご都合主義ではある反面、世の中の様相を表していておもしろいなあ、と思ったり。

ホラー小説で名を馳せた恒川光太郎がこういうタイプの話を書いていたと知りませんでした。元々、ファンタジー風味のホラーという雰囲気ではありましたが。

主人公は斉藤夕月。
女。三十四歳。無職。

七年前のとある事件から、片足と心に後遺症をもつ夕月は、まともに就職もできず鬱々とした毎日を送っていました。そんなある夜、夕月は不気味な男のもつ福引で、「一等 スタープレイヤー」を引き当てるのです。

次の瞬間、夕月は見知らぬ場所にいました。

彼女の目の前には奇妙な石板「スターボード」があります。「スタープレイヤー」のみに与えられた十の願いを叶えられるという力。夕月はこの力を使って何を成し遂げるのか。

というのが大まかな流れです。

よくあると言えばよくある設定です。

とはいえ、主人公である夕月が実に俗っぽい。なにしろ、初めのいくつかの願いの使い道が、金銀財宝でできた豪華な住居を作ることと、自分の外見を完璧なものに変えることなのですから。あまりに浅はか。のちに夕月も自分自身の浅はかさを後悔したりするのですが、まあ、でもそこもリアルなのかもしれません。

異世界における民族間の紛争への介入を決断するきっかけも、自衛と非常に単純な正義感からでした。

たかだか一人の人間がチート能力を与えられたからといって、力の及ぶ範囲は卑小なものであって、世界を変えられるほど大層なものじゃない。本作は、昨今のチートライトノベルに対する冷笑じみたものを感じます。

夢はないですが、まあ現実はそんなものなのでしょう。
ハッピーエンドでは終わりますので、ご心配なく。