雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

品田 遊 『止まりだしたら走らない』

中央線を舞台にした群像劇です。
特に大きな事件は起こらずに、普通の人が抱える、小さくも微笑ましい事件を丁寧に描写しています。

話の軸になるのは、自然科学部所属の都築と、ひとつ上に当たる新渡戸先輩。野外活動のために、彼らは先に行った部長をはじめとする他のメンバーを追いかけて、東京から高尾まで、中央線で移動していくのです。

とりとめのない会話をしながら、平和に過ぎていく日常。
一話一話は短く、とても読みやすいです。

とはいえ、一話ごとにに起承転結があるかというと、そういうわけではありません。
Amazonのレビューを見ると、著者はラジオをやっているようですので、読者から投稿されたエピソードを書き起こす、というイメージで書かれているのかもしれません。

都築・新渡戸の物語の合間合間で挿入される多種多様な人々の生活。
本筋と何か関係があるのかと思って読んでいたのですが……どうなんでしょう?
すべてが絡み合って、最後にばちりとはまってくれるのも好きですが、無秩序に人々は自分自身の人生を一生懸命生きている、というのがテーマな気もします。

さてさて、中央線のユーザーにはいろんなタイプがいます。

特に印象に残ったのは、この唐突なカミングアウト。

そして、かれは露出狂だった。金曜日の夜になると、学校帰りの中高生の前に現れ、おもむろにズボンを下ろすのが彼の習慣だ。

強烈な設定を膨らませるでもなく、他の登場人物たちと同じトーン、密度で終わらせてしまうところは面白いなと思いました。