雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

矢部 嵩 『魔女の子供はやってこない』

導入部分の衝撃的な大量殺人。
これはなんだかやばいやつが登場したぞ、と思いきや、地味目な女の子の安藤さんと、金髪色白美少女魔女のぬりえちゃんの、探偵物語チックな展開へと一変する、なんとも奇妙な味の物語でした。

魔女の修行のために人間界へとやってきたぬりえちゃんは、魔法を使って人助けをするのですが、いかんせん、世間知らずの魔法少女の相棒は友達のいない小学生少女。スプラッタな展開になったり、人間の醜い面を突きつけられたり、ハッピーエンドで終わることはありません。

ぬりえちゃんの力のおかげで、たくさんの人たちが血まみれのぐちゃぐちゃになったりするのですが、それでも彼女らには悪気は一切ないようです。

【「あの子今日のこときっと一生忘れないよ 。刺されたこととか 、殴られたこと 。騙されたのとか死にかけたことも 。今日あった怖かったこと全部 、きっと一生覚えてるよ 。安藤さんは取り返しのつかないことしちゃったんだよ 」褒めるようにいって彼女は私を覗き込みました 。】

ぬりえちゃんのこのセリフに、彼女の性質が凝縮されているような気がします。
彼女は悪ではない、とは言っても善でもない。ただただひたすらに無垢なのです。

無垢ゆえに暴走し、無垢ゆえに人に振り回される。
最後の最後はなんだか綺麗にまとめられているのが不思議。
言葉の選び方はすこーしだけ狙いすぎかな、という気がしましたが、こういうホラーもなかなか。

ちなみに私、kindleで読んだのですが、文庫版はなぜこんなにプレミアついているのでしょうか。