雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

中山 市朗 『怪談狩り あの子はだあれ?』

「幽霊の出てこない話」だそうです。
と聞くと、なんとなく人間の恐ろしさを描いた話なのだろうか?と短絡的に思ってしまいますが、ちょっと違います。

出てくるのは、妖怪変化の類でしょうか。
日本昔ばなしの現代版といえば近いかもしれません。
聞き書き形式の短編集です。

計算し尽くされたホラー小説も面白いですが、こういう実話系の話も面白いです。どうにも辻褄が合わないところがまた、リアリティがあって想像力を掻き立てられます。

下はどこかユーモラスさがただよう不思議な話の一文です。ガソリンスタンドに、一休さんのような姿をしたものが現れて、給油のノズルを舐めて「アジナシ、アジナシ」と呟いているところが目撃されているというのです。


【「だって、寺の小坊主みたいなのがノズルをもってぺろぺろ舐めながら、味がないって言っている、そんなこと言って信じてもらえますか?」】


まさしくその通り。私でも「あほゆうな」と答えてしまいます。

ちなみに、「アジナシ」とは古い言葉で「不味い」を意味するそうで、食用油をガソリンスタンドで供えたら、現れなくなったということです。アブラを舐める妖怪でも、石油系の味はまずかろう、という落ちがついています。

日本の妖怪は怖い一辺倒でなくて、なんとなく親しみが持てます。
血塗れとか、死んだとかそういう話は極々少数ですので、苦手な人でも安心して読めます。
これをふくらませてアニメにしたら面白そうだなあ。


怪談狩り あの子はだあれ? (角川ホラー文庫)

怪談狩り あの子はだあれ? (角川ホラー文庫)