中山 市朗 『怪談狩り あの子はだあれ?』
「幽霊の出てこない話」だそうです。
と聞くと、なんとなく人間の恐ろしさを描いた話なのだろうか?と短絡的に思ってしまいますが、ちょっと違います。
出てくるのは、妖怪変化の類でしょうか。
日本昔ばなしの現代版といえば近いかもしれません。
聞き書き形式の短編集です。
計算し尽くされたホラー小説も面白いですが、こういう実話系の話も面白いです。どうにも辻褄が合わないところがまた、リアリティがあって想像力を掻き立てられます。
下はどこかユーモラスさがただよう不思議な話の一文です。ガソリンスタンドに、一休さんのような姿をしたものが現れて、給油のノズルを舐めて「アジナシ、アジナシ」と呟いているところが目撃されているというのです。
【「だって、寺の小坊主みたいなのがノズルをもってぺろぺろ舐めながら、味がないって言っている、そんなこと言って信じてもらえますか?」】
まさしくその通り。私でも「あほゆうな」と答えてしまいます。
ちなみに、「アジナシ」とは古い言葉で「不味い」を意味するそうで、食用油をガソリンスタンドで供えたら、現れなくなったということです。アブラを舐める妖怪でも、石油系の味はまずかろう、という落ちがついています。
日本の妖怪は怖い一辺倒でなくて、なんとなく親しみが持てます。
血塗れとか、死んだとかそういう話は極々少数ですので、苦手な人でも安心して読めます。
これをふくらませてアニメにしたら面白そうだなあ。
- 作者:中山 市朗
- 発売日: 2019/08/23
- メディア: 文庫