雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

百田 尚樹 『カエルの楽園』

日本(JAPAN)をもじった、ナパージュというツチガエルたちの楽園の壊滅を通して、日本の環境を寓話仕立てに書いた小説です。
誰を指しているのかやや露骨なところはありますが、さすがの読みやすい文章と、寓話ならではの残酷な表現、そして著者の手によるゆるいカエルのイラストがあいまって、完成度は高いです。

生まれ育った国を奪われて、流浪をつづけていたアマガエルのソクラテスとロベルトは、ツチガエルたちの暮らすナパージュという国にたどり着きました。
そこは、外敵もおらず、豊かで平和なカエルたちの楽園というべき場所でした。

【カエルを信じろ】【カエルと争うな】【争うための力を持つな】という三戒を守り、平和を謳歌していたナパージュのカエルたちですが、その平和は次第次第に不穏な影に包まれ始めます。

ナパージュは切り立った崖の上に存在し、崖下の沼地には、体の大きなウシガエルが住んでいました。
ウシガエルたちは、別の種類のカエルを食料としていて、ナパージュにまで犠牲となったカエルの悲痛な声が聞こえてくるのです。

そんなウシガエルがある日、崖の縁に姿を現します。

当然のように恐慌状態になるツチガエルたち。
しかし、ナパージュの影の権力者であるデイブレイクは、彼らは平和を愛するカエルたちで、危険な存在ではないと主張します。

日に日にエスカレートしていくウシガエルたちの侵入にも、デイブレイクは心配することはない、彼らを刺激してはいけないと言い続けます。
さらには、強大な力を持った鷲・スチームボートを追い出し、ツチガエルを守るためにウシガエルと戦った勇敢なハンニバル兄弟を処刑、あるいは腕を落とし、目を潰してしまいました。

三戒があれば争いは起こらない、話し合いで決着がつくと考えていたカエルたちは、三戒を抱えたまま、ウシガエルたちに虐殺されていきます。
果たして、ツチガエルたちを守っていたのは、三戒だったのかそれともスチームボートとハンニバル兄弟だったのか。

登場する各カエルの種族がそれぞれ何を表すのかは言うまでもないでしょう。
政治がらみの本は7割くらいは差し引いて読むようにしていますが、世界中がきな臭くなりつつある昨今、背筋がひんやりとします。


著者も嫌われ者のカエルとしてちゃっかり登場していました。

【その時、ソクラテスの後ろで、「ふん」という声が聞こえました。振り返ると、ハンドレッドが立っていました。】


最後に、ツチガエルたちを洗脳するカエル・デイブレイク。
解説でも書かれているように、このネーミングセンスは確かに秀逸です。

カエルの楽園 (新潮文庫)

カエルの楽園 (新潮文庫)