辻堂 魁『風の市兵衛』
主人たる高松道久が禁じられた相対死(心中)により亡くなったことで、家計的に逼迫していた高松家。
財政の立て直しのために期間限定で雇われたのは、侍ながらも算盤を弾くのが得意な唐木市兵衛です。
彼は、美しい未亡人・安曇から、高松家の台所事情を聞きこむうちに、腑に落ちない点が多々あることに気づきます。
堅実な生活をしているはずの高松家になぜ、蓄財がないのか。
主がしたという、使途不明の借金とは何か?
市兵衛が調べていくにつれて、その背後には大きな陰謀が渦巻いていることが明らかになっていきます。
さて、算盤侍・唐木市兵衛のたどり着いた真相とはーー
というようなストーリーなんですが、うーん、表紙がなかなかポップな感じだったので読んでみたのですが、これはもう少しご年配の人向けの本なのでしょうか(といったら、ご年配の人に失礼かもしれませんが)。
主人公の唐木市兵衛が、なんだかロボットみたいなんですよね。
算盤も弾けるし、剣も達者、安曇から好意を抱かれるほどの顔立ち、加えて家柄も立派ときています。
感情を見せることも取り乱すこともなく、著者が作ったストーリーの上をただ淡々と歩いているみたいな。
市兵衛SUGEEE、市兵衛TUEEEの小説ですので、そういうのが好きな方はぜひという感じです。
市兵衛が強すぎて、ピンチのシーンが全然ピンチになりません。
文章は下のような感じで、短文+改行でガンガン進みますので、読みやすいといえば読みやすいのかもしれませんね。(語尾に“〜た。”が連続するのは、私好みではないですが)
【雷が遠くで鳴り、雨は止んでいた。
雲が切れ、星空が見えた。
渋井は、冥土へついたんだな、と思った。】
- 作者:辻堂 魁
- 発売日: 2010/03/11
- メディア: 文庫