雑食こけしの読書録

読書記録をメインに趣味のことをゆるく書いています

岩井 志麻子 『現代百物語』

ホラーの名手による九十九の怖い話詰め合わせです。

著者が実際に見聞きした怖い話を集めたものなので、幽霊的な怖さではなく、人間の怖さの方が前面に押し出されています。

いたずらに恐怖をあおるのではなく、淡々とした文章で綴られているのがかえって怖さを引き立ててきます。

下は、ベトナム人の愛人を持つ著者が、その友人と三人で会ったときのワンシーンです。


【それから、トイレのほうをまず指差し、その指でまっすぐ本の中の嘘つき、を指したのだ。】


トイレからなかなか戻ってこない愛人を待つ間、手持ち無沙汰になった著者は、彼の友人に、彼の性格をたずねてみました。あまりベトナム語に堪能でない著者が使ったのは、指さし会話の本です。
「スケベ?」「ちゃっかり者?」とおどけた反応を期待していましたが、友人は笑顔を崩さないまま、この動作をしたというのです。

果たして嘘つきなのは、愛人なのかその友人なのか、それを判断することは当人たち以外に誰もできません。

ただ、怖い。


現代百物語 (角川ホラー文庫)

現代百物語 (角川ホラー文庫)